【OTトピック】訪問看護セラピスト直撃取材①

学会発表
「ニーズに隠された大切な作業が生活を大きく変えた事例」について。

今回のゲスト
ソフィアメディ株式会社
ソフィア訪問看護ステーション小山
作業療法士 長縄 和久
http://www.sophiamedi.co.jp/
略歴)
2008年‐2013年  北原国際病院
2013年4月 ソフィアメディ(株)入社
      ソフィア訪問看護ステーショ
      ン小山配属
2016年3月 第3回日本臨床作業療法学会
      学術大会 優秀演題賞受賞
2017年4月 ソフィアメディグループ
      平成30年3月期経営方針発表会
      最優秀社員賞受賞

インタビューアー
一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー 上原良夫 / 篠木里依 / 金杉優衣
http://www.hokan-e-parlor.com/
取材日:2017年6月13日
ソフィア訪問看護ステーション小山の作業療法士である長縄さんは、訪問看護ステーションでの業務の傍ら、本年5月13日、日本臨床作業療法学会にて事例の発表をされました。今回の学会発表内容について伺うと共に、日々プロフェッショナルとして取り組んでいること、サービスご利用のお客様・患者様との信頼関係をつくるポイントなどについて取材をしました。(篠木)

 

違う環境で働いている人から意見や感想をもらい、

より良いリハビリへ

-今回(5/13)の日本臨床作業療法学会参加の動機は何ですか?
長縄 僕が学会発表をする理由は、作業療法士の理論に則って、生活が大きく広がった例を共有したいという想いと、発表後対象のお客様・ご家族へ発表結果をフィードバックし一緒に喜ぶ機会を作る為です。

-それは、リハビリを通してお客様と協働するような、訪問ならではの「親身さ」を意識しているのですか?
長縄 そうですね。どうしても、病院と違って一人で訪問し診ることが多い為、学会発表することで自分自身の振り返り・確認を行い、より良いリハビリが提供できるよう努めています。

-学会発表等の外部へ発信することは、以前から取り組まれているのですか?
長縄 社会人1年目から取り組んでいます。職場の同僚だけでなく、違う環境で働いている人からも意見や感想をもらえるのが新鮮です。また、自分のやっていることが業界でどれだけ認められるかを感じる機会とも思っています。良くも悪くも学会発表の醍醐味じゃないでしょうか(笑)

-そうですか(笑) ところで訪問系リハビリの業界では、学会活動は活発なのですか?
長縄 学会では全国各地からセラピストが集まって発表しています。しかし、病院によって力の入れ具合に偏りがあり、特に訪問リハビリについての学会発表はまだまだ少ないように感じています。

ニーズの本質を正しく理解することで、目標を転換する

-それでは、今回の発表内容について教えてください。
長縄 サービスご利用のお客様のニーズが、「それは真のニーズかどうか?」を見極め、QOL向上を目指す、というのが端的な内容です。

サービス開始当初は、「トイレ動作と外歩きができるようになりたい」というニーズが挙がっていた為、歩行とトイレ動作に着目し、機能訓練・ADL訓練を行いました。結果的に、機能は上がることができましたが、外出はできず介護生活には何も変わりはないというのが現状でした。

そこで私は、お客様のニーズ「トイレ動作」と「外歩き」について分析を始めました。具体的には「どこへ外歩きをする事が好きだったのか?」等、お客様の生活歴と重ね合わせるように聞きました。その結果、お客様にとっての大切な活動は「家族と一緒にホテルのビュッフェへご飯を食べに行くことが楽しみだった」ということであり、「トイレ動作」「外歩き」というニーズは、「家族と一緒にホテルのビュッフェへご飯を食べに行く」事を達成する為の要素である事がわかりました。

「外歩きをしたい」という理由は人によって様々だと思います。「歩いて景色を見る事が好きだから外歩きをしたい」と考える人もいれば「映画館へ行く為の手段として外歩きをしたい」と考える人もいる等、千差万別です。作業療法の理論では、その人にとっての大切な活動にはどんな要素が隠されているのかを「機能」「形態」「意味」という3つで分類して示す事が出来ます。

この中でも特に「意味」がとても重要であり、今回のお客様の場合は、「家族との繋がりを大切にしている」ということでした。そして、最も大切な活動は、「家族と一緒にホテルでビュッフェを食べる」ということが解り、それを達成する為の要素として「トイレ動作」と「外歩き」があるのだと気づくことができました。一連の分析の過程は、キーパーソンのご家族と一緒に行い、一緒に気付くことができた為、新たな目標・ニーズを「家族と一緒にホテルに行こう」へ転換させていく事が出来ました。

ただし、このお客様はもともと寝たきり状態に近い方なので「外を歩く」という目標は、現実的には難しい状況でした。とはいえ「家族との繋がり」という「意味」を大切にしているのであれば、必ずしも「歩行」「外歩き」にこだわる必要はなく、「車椅子で行く」等の別方法もいいのではないかとご家族に提案し、これまで行っていた機能訓練・ADL訓練は継続した上で、ご家族が車椅子を押す練習や、スロープの設置練習等の取り組みを追加しました。しばらくすると、今まで家から出られなかった状態であったにも関わらず、少しずつ一緒に外出訓練ができるようになっていきました。私が訪問をする度に「この間は、一緒にレストランでランチをしました」や「一緒に買い物に行きました」と報告を受けるようになり、生活の幅が広がっていったと実感することができました。

サービス提供開始から3ヶ月程経過した頃、娘さんより「隣町のご実家に行かせてあげたい」という話がありました。そのニーズに向けた支援をさせて頂き、結果何年ぶりかに実家に行くことができました。そうした過程を経て、いよいよ目標のビュッフェに行けそうだと思っていたのですが、残念ながらその11日後にお亡くなりになれ、目標であったビュッフェは行けませんでした・・・。ただ、娘さんからは「最後に実家を見せてあげることができて良かった」との言葉がありました。もし具体的な目標をもってリハビリを実践していなければ、ずっと家で療養するだけだったかと思います。今回、早い段階でニーズを転換させたことによって最後まで本人らしい活動ができたのではないか、と振り返っています。

ご家族と一緒に作業・分析し、生活が広がっていく

今回発表の事例考察は、吉川先生の「作業(活動)には階層段階がある」の理論を基におこないました。(表1)当初「トイレ動作と外歩き」というニーズが、階層段階の最上層にあると思いリハビリ介入をしていたが、それでは生活の広がりは得られなかった。そこで、ニーズを「形態」「機能」「意味」という観点から分析した結果、ニーズに隠された大切な活動に気付く事が出来た。その後、最上層となる大切な活動が決まると自ずと下の階層も固まり、階層構造の安定により生活が広がるきっかけになったのではないか、と考察をしました。
もし、外歩きにこだわったままだったら、本来の目的は達成できなかったと思います。多くの場合、いきなり車椅子の提案をしても受け入れてもらえないだろうが、ご家族と一緒に「大切な活動を達成する為にはどうすればいいのか?」をよく話し合えたことにより、歩行ではなく車椅子という代替案へ転換し、目標に向かって生活が広がったと考えています。

-お客様・ご家族との信頼関係はどうやって築いたのでしょうか?
長縄 どうして私の提案にのってくれたのかをご家族へ質問をすると、「何を考えればよいか、何を希望すればよいか見当もつかなかったのでお任せしました」とう回答でした。人生の岐路に立たされている方々にとって、生活を一緒に分析し道しるべを作っていくのが作業療法士の存在意義なのかなと思っています。「Here and now」=「ここで今なぜその言葉を使ったのか」と思考するのが大事だと思っていますが、お客様の言葉一つ一つにどんな意味があるのかと考え、一つ一つ丁寧に返答するよう心がけていったことが、信頼につながったのではないでしょうか。

-約3ヶ月間のリハビリ介入で、ご本人のQOL向上はすさまじい物がありましたね。
長縄 そうですね。このお客様は、90歳以上でしたが、なかなかここまでアクティブに動ける方はいないと思います。結局は、ご家族の力だと思います。

-リハビリの効果に、家族の支えの影響は大きいですか?
長縄 大きいです。ご家族が理解ある方だったから上手くいった、といっても過言ではありません。逆に、同じ事をしても家族が協力的じゃないと、全く違う結果になっていたと思います。

-外出へ向け、ご本人・家族にどういったアドバイスを行いましたか?
長縄 一番は怪我をしないように、転倒しないように、とアドバイスをしました。また、車椅子での段差の乗り越え方やブレーキのかけ方、止め方など、徹底してご家族に練習をしていただきました。

-ニーズのヒアリングに関しては時間をかけたと思いますが、どのくらいの頻度・間隔で実施するのが望ましいですか?
長縄 一概に数字では示せないですが、目標づくりの為に節目節目で実施しています。行き詰った時や、小さな目標を達成した時などの節目で漫然としないように。

-ヒアリグ内容以外に指標とした評価スケールはありますか?
長縄 COPM(カナダ作業遂行測定)という、一緒に目標を立てて遂行状況や満足度がどうか等のスケールは常に意識しているので、それに則り対応しました。評価用紙とかは特に使っていないです。

「その人にとって幸せなことは何か」を常に考える

-長縄さんが、訪問の作業療法において大事にしていることは何ですか?
長縄 OTを始めたばかりの頃は、実は機能的な面ばかりを見ていました。機能が良くならないと、ADLや生活が向上しないだろうと漠然と思っていた為です。でもある時、同期のOTから「その人が幸せになる為なら機能だけにこだわらなくてもいいのではないか?」という言葉を聞き、「はっ」としたんです。僕が行った機能訓練だけでは必ずしも幸せに繋がるとは限らないのだと悟った瞬間でした。
患者様・お客様の環境・背景・想いを見た上で、どの方法・どの選択肢が大事なのかを考え、様々な方法を使うことで、今回の発表したことのようなQOL向上に繋がるんだと思います。私は今「その人にとって幸せなことは何か」と、常に考えることをモットーにしています。

-ご家族と共に頑張っていく上で、難しかったことや意識されたことは何ですか?
長縄 今回のご家族はすごくリハビリに熱心だったので、疲労してしまう点が心配でした。他でも同様ですが、家族コントロールは重要だと思っています。提案すれば、どんどん挑戦してくれますが、比例してどんどん疲労が溜まってしまうので、「今日は休んでもいいんじゃないですか?」とか「そんな無理しなくてもいいですよ」等など声掛けをしながら。。。積極性を抑えるか、頑張ってもらうか、の見極めやコントロールは難しかったです。

-「頑張る」or「抑える」を見極めるポイントは何ですか?
長縄 表情とか言葉、あとは…雰囲気ですかね(笑) 気になったことはなるべく声を掛けてその時の家族の気持ちや疲れを一緒に共有するようにしています。

-PTではなくOTになろうと思ったきっかけは何ですか?
長縄 1対1でお客様と接することができ、また、もともと絵を描いたり物を作ったりすることが好きだったので、自分の特技が活かせればいいなと。。。医療職についたのは、祖母がリウマチで子供の頃から階段を登るのが大変で「用心棒だね」なんて言われながら手を貸したり、家族の周りにも医療関係者が多かったので自分も目指したいなと思っていました。

-ますますのご活躍、期待しています。ありがとうございました。

-取材後記・・
取材を通し、長縄さんが訪問や学会発表活動を積極的に行っているのはお客様への強い思いと自分への厳しさがあるからこそと感じました。今、目の前にいるお客様の思い・言葉・表情等を余すことなくキャッチし、素早く分析し行動に起こすというのは、とても難しいことですが、それを粛々と冷静に実施されているというのは、高いプロフェッショナル意識で素晴らしいことだと思いました。
また、環境や自分に甘んじず多くの情報収集を行い、その成果を発表し評価されることで、自分の気持ちを高めているようです。長縄さんにとって、より良いサービス提供とは、お客様の夢を追及し続けることであり、それが信頼を築く秘訣なのだと感じました。(篠木 里依)