新卒訪問看護師の勧め④【最初の試練】

こんにちは。新卒で訪問看護師になった小川綾乃です。
朝、お布団から出るのが辛い時期がやってきました。
今年も残すところあと1か月ちょっと、時間が経つのが早く感じます。

今日は私が新卒で訪問看護師になり、
最初の試練となったお客様のお話をしたいと思います。

新卒の私にとって訪問での初めての大きな試練、それはKさん。
Kさんはケアマネさんも何人も交代、事業所も何か所も交代、
ヘルパーさんも何人も交代、ヘルパー事業所も何人も交代、
そして訪問看護も・・・もちろん同様でした。

先輩方は度重なる電話と文句にうんざりしていたようで
まともにケアの出来ない私には服薬セットと傾聴、
というお仕事がうってつけだと判断され
Kさんのお宅にお伺いすることになりました。
訪問時間は金曜日の17時~18時でした。

お伺いすると初対面の私に優しいお声でお話してくださるKさん。
ほっとして帰ると翌週の月曜日に「小川さんいる?」とお電話が。
「あんたが薬をセットしてないから体調が悪くてしょうがない。
今すぐ来てセットし直しなさい!」
「下痢が止まらない、薬を間違えたからでしょ!」と。
私が慌てて駆けつけると薬はきちんとセットされており、何も間違っていません。
ポータブルトイレの中には見事な普通便。
Kさんのヘルパーさんや私に対する文句をお聞きして帰る、
ということが毎週のように続きました。
月曜日の朝の電話が鳴るとKさんからじゃないか、とびくびくしていました。

その後は訪問しても最初の優しいKさんはどこへやら
野良猫を家で飼っていてその猫が薬の上に載って動かない時は
「猫も人を見るのね。あんたじゃダメだってさ」
訪問看護師のドキュメンタリー番組を見ては
「あれが本物の看護師よ。あんたなんか看護師なんて呼べないわよ」
そういったことが毎回続きました。

そして「人が侵入してきたから警察を呼んだ」「ヘルパーが物を盗む」という
事実と異なることも仰ることが多かったです。

複数の病気を抱えて思う通りにならない体、人の手を借りないと外出できない環境
近くにお友達もいらっしゃらないようで寂しさやストレスもあったことと思います。
Kさんは寂しい、辛いご状況なのだということは分かっていても
私自身が苦しかったです。
世の中、真心があればいつかは通じて、きっと分かってくださる、
良い関係が築けると信じていましたがどうにもなりませんでした。

淡々とこなしたり、宥めてみたり、少し言い返してみたり・・・
何をしても全く関係に変化が起きている感じがしなくて、
帰り道自転車をこぎながら泣くこともありました。
でも、時々はお菓子を用意してくださったり、
とてもフレンドリーにお話をしたりして

抱えきれない時にはいつも営業のSさんに話を聞いてもらっていました。
お話を聞いてもらっていなかったら訪問を続けられなかったと思います。

結局3年間通いました。
病院でも同様な行動をとっていたため通院していた医師からも見放され、
私がクリニックを探して調整をしていました。

そんなある日。水曜日に電話がかかってきました。いつも月曜日なのにどうしたんだろう・・・と思いながら電話を取ったところ「あんたに会えてよかった、それだけ。」と言って電話が切れました。
頭の中は?でいっぱい、珍しいこともあるのだな、と思いながら過ごしていました。

 

翌日自宅で急に倒れ、救急搬送されたとケアマネジャーさんから連絡をもらいました。
植物状態でICUに入っているとのこと。

ショックで息を呑んだ私が思い出したのはKさんとの会話でした。
Kさん「あんたは優しくないから私が入院したらきっと見舞いにも来ないでしょうよ」
私「そんなことないです。優しいかどうかはともかく、お見舞いには行きますよ」
Kさん「どうだかね」
あの時の約束を果たさなくては嘘つきになってしまう、強くそう思いました。

たまらなくなってICUに行ったところ身内以外は面会出来ないとのこと。
ICUのインターフォンに私は訴えました。
「この方は身寄りもほとんどいらっしゃらないし、
私、入院したら絶対お見舞いに行くって約束したんです」
今思えばとんでもないことですが、
ICUの看護師は「5分だけなら」と入室を許可してくれました。

挿管されて意識のないKさんを見て
「もう一度どんな嫌な言葉でもいいからお話をしてほしい」と思いました。
そして「Kさん、約束守りに来ましたよ」と伝え、手を握りました。
握り返してはくれませんが、Kさんの温かな手のぬくもりを感じました。

Kさんは翌日息を引き取りました。
 
 
あの頃のことがあるので、私はどんなことでも耐えられると思います。
そしてやっぱり真心は通じるのだ、とも思っています。
冬の夕方は日が落ちるのが早く、真っ暗な中泣きながら自転車をこいだ帰り道。
今でも寒くなるとあの日のことを思い出します。